2011/09/06

「自炊」の代行は著作権侵害?

Category: コンピュータ,ニュース,書籍 — Annexia @ 23:59

「書籍の“自炊”代行は複製権侵害」出版社7社と作家122人が業者に質問状

 買ってきた書籍を裁断してページごとに分割し、ドキュメントスキャナに取り込んでPDFなどのデジタルデータに変換する行為を「自炊」といいます.デジタルデータにするときにOCR機能を使ってテキストをきちんと文字として認識することで検索が容易になったり、iPadなどのデバイスに大量のデータを取り込むことができるなど、メリットが多いため徐々に普及しているようです.
 ただし、導入にあたってはいくつかの障壁があります.書籍の裁断を行う裁断機やドキュメントスキャナは価格もそれなりに高価で(両方あわせて5万円くらいでしょうか)、なおかつ場所をとるなどの難点もあり、気軽に自炊を行える環境にないのも事実です.そこで、書籍を送ると裁断からデジタルデータ化までの自炊作業を代行して行ってくれる業者が登場しています.

 ところが、こうした代行自炊業者に対して作家や出版社などが「複製権」の侵害であるとして、各業者に質問状を送ったそうです.買ってきた書籍を個人が自炊するのはOKだけれど、委託されて自炊するのは「使用する者が複製できる」という著作権法の範囲を超えてしまっているというのが理由だそうです.
 また、裁断した書籍がオークションに流れるなど、自炊行為自体を「「紙の本が消えてデータに変わるだけ」と言うことはできないなどと苦言を呈している」といったように、快く思っていないようです.

 どうして個人が、わざわざお金を出して買ってきたまっさらの書籍をさらにコストをかけて裁断してスキャナにかけるような面倒なことをしているのか、考えたことはないのでしょうか.タブレットや読書端末が登場していることで読書スタイルそのものが変わってきているのに、それに出版社が応えるということがまず最初にすべきことでしょう.
 「もうすでにいくつかの書籍は電子化されて売られている」というかもしれませんが、残念ながら現状はとても満足できるものではありません.電子書籍化されている数そのものが少ないことに加えて、さらに面倒な障壁があるのです.自分はiPadユーザですが、電子書籍を買おうと思ったら、まず「どのアプリで売られているのか」を調べることから始めなくてはなりません.現状は出版社、取次、広告代理店など各社が独自の電子書籍アプリをリリースしており、その中でコンテンツを囲い込んでいます.iPadに最初から用意されている「iBooks」には未だに一冊も日本語タイトルの書籍はありません.Appleの対応や縦書き処理など日本語独自の細かな問題もあるようですが、はたしてそれらがクリアされたときにiBooksに書籍が並ぶのか、また今までに各アプリで購入した電子書籍が無料でiBooksにデータ移行できるようになるのか、不安要素でいっぱいです.

 自炊するために裁断した書籍がオークションに流れて違法コピーの温床になっているということを危惧しているのであれば「自炊なんて面倒なことをしなくてもいいや」と思えるような仕組みを構築すべきでしょう.それこそ、図書館が無料貸本屋になっている現状を駆逐し、読書家がヴァーチャルながら眺めて納得できるような、蔵書感に満ちあふれるシステムを作ってほしいものです.
 自炊が発生した理由や経緯を考えずに、押さえ込むという方向に動いてしまったことは出版業界においては今後に響いてくる失策のように思います.